わさびの里さらさら46
2013年、新しい年の幕開けです。
工房内に流れる小さな川に沿って、わさびの新芽が姿を見せています。小さな一葉を口に含むと、心身の隅々にわさびの辛みが行き渡り、心に一筋の光が射し、背筋を伸ばさずにはいられない凛とした気持ちになります。
昨年の暮れ、和歌山大学観光学部教授の加藤先生より、相談に乗っていただけないでしょうかとの連絡がありました。元旦より来和されるオーストラリア・クイーンズランド大学の学生20名の、近露の古民家を利用した研修所での活動に、古い着物を利用しての座布団作りを提案され、協力して貰えたらとのお話でした。
2年前にも、加藤先生からの依頼を受け、アメリカからの学生さんたち11名が工房に二泊されたことがあり、工房内のボランティア作業や邦楽・和菓子の話等を楽しんで貰った事があります。
古い着物は、今や絹で出来ているとは思えない安価な値段となって、店頭に並んでいる状況です。「捨てられるものを生かす」というパッチワークの原点を、常に頭に置いて作品を創る日々ではありますが、数々の高価な着物をお預かりしても、どれだけの作品として遺せるだろうかとの思いがあるのも否めません。
私の手持ちの古い着物と、知人で古い着物をたくさんお持ちのかたの協力も得、約10枚の着物を用意しました。まずは着物をほどく作業からですが、この作業は楽なものではありません。針仕事を好んだ母が、私の役にたちたいと、ほどく作業をかって出てくれた事があります。その羽織は濃紫色で、晩年の母は針目が見えにくく大変な苦労をした様です。そのキルト『白蓮のかほり』は、亡き母の思い出深い一枚になりました。
異国の学生さんたちが、初めて触る着物や針目に、どんな感想を持たれるのでしょう。加藤先生に、木綿と違って絹は細い針でしか縫えないことを伝えると、ミシンがありますとの事で、ややがっかりし安心もしました。出来た座布団は、その古民家施設に寄付されるのだそうです。
思えば、奥佐々とのご縁は、「わさびが自生しています。」と聞いた一言で始まりました。皆さんの協力を得、わさび畑を作り、小川の掃除をして自生しているわさびの株を増やしと、努力も重ねてきましたが、最近の獣害により、川も畑も荒れる一方です。しかし、希望はあります。たった一人でも“あきらめない”人間がいれば。今回の選挙に立たれた山下大輔さん、紀州有田みかんの味を守り続ける小澤嘉夫さんたちも、そういう方たちでしょう。
熊野と高野山は、日本の何処にも負けない世界に誇れる聖地です。和歌山市には、和歌浦という素晴らしい歴史ある景勝地もあります。食にも恵まれたこの県に何が足りないか?住む県民に誇りが足りないという一言に尽きるのではないでしょうか。“和歌山ほど素晴らしい県は他にない!”との誇りを、県民の50パーセントを超える人たちが持った時、他県や海外からのお客様が押し寄せ、観光で潤う県となるものと信じます。
静岡のわさびは、紀美野町や清水町より伝わったと聞きました。日本独自の食材のわさびを口に含み、今一度凛とした紀州人の心に立ち戻ろうではありませんか。
蒲公英工房主宰・キルト作家 黒田街子