わさびの里さらさら44
工房では、栗・柿・キーウイ等が収穫の季を迎えています。
この1・2年の動物(特に猪と鹿)による被害は加速するばかりです。日中堂々と子供4頭を連れた母猪が栗を食べに現れ、桃やサクランボの木は鹿に無残にかじられ、山道で猪や鹿に出会うとの話も頻繁で、一日中動物の鳴き声が聞こえている事も少なくありません。
食糧自給率の低い日本で、里山に残された田畑は貴重な国の財産ではないかと思う日々を過ごしていますが、目の前の畑を管理する事さえ大変難しくなっている状況です。
先日、尊敬する有田の農場主・小澤さんより、「そろそろピーナツを掘れます。」との連絡がありました。去年初めて分けて頂き、その美味しさにはまってしまった人たち10人余りと、注文させて頂きました。美味しさの秘密は、ゆがく際の塩分の濃度と、冷めるまでそのままにして塩味をピーナツにしみこませる
行程にあると思われます。「翌年の夏まで冷凍し、少し解凍した位でビールのつまみにするのも最高ですよ。」とのお話でしたが、冷凍する所まで至らない速さで、一気に食べてしまったという方が殆どでした。
小澤さんが作る作物(みかん・蟠桃・仏手柑等)は、工房にとって毎年全国各地に向けて送らせて頂く、なくてはならない作物となっています。お世話になった方々へ、紀州が誇る作物を送る事の出来る有難さです。
時折注文の際に、農場主との電話が長くなる事があり、専業農家として生計を立てておられるご苦労をしみじみ感じさせられます。『心と大自然で育てる小澤農場』とのキャッチフレーズ通り、できるだけ農薬を使わずに美味しいものを消費者に届けるという、こだわりと誇りの見える作物づくりが、如何にご苦労の連続だろうかと、小さな畑で四苦八苦しているわたしは感心するばかりです。
猪や鹿等の動物による被害が人間に及んでからでは遅いので、実際問題として行政側がどれ程危険度を認識しているのだろうかと思い、和歌山県庁に電話し、鳥獣対策の担当者に質問しました。県が民間の会社に委託し、取り組んではいるようですが、効果は得られず(動物は慣れるので、継続しての効果は得られない状況)、国としても色々とやってはいる様ですとの返答でした。危険度があれば、紀美野町に話をして下さいとの事、紀美野町産業課の職員と電話で話をしました。訴えがあれば猟友会のチームが駆除に動きますとの事でしたが、猪や鹿の出没は工房付近にのみに非ず、町全体の問題でしょう。
例えば、紀美野町がモデルケースとなって、被害を未然に防ぐべく細かい調査を実施して対策を練り、いくつかの方向性を見出す事にでもなれば、全国に先駆けた取り組みとして、一躍脚光をあびる事となるのではないかと思っています。
10年後の食糧事情がどうなっているのか見当もつきませんが、数百年の長きに渡って手に汗して耕してきた田畑を、荒らしたままで良いとは思えず、草を刈り種を蒔く。その作物をお裾分け出来た時の嬉しさは、鮮やかな大きな虹に出逢う喜びと重なります。
(蒲公英工房主宰・キルト作家 黒田街子)