中勘助著『銀の匙』を中高6年間テキストにした、灘校の伝説国語教師・橋本武先生の『奇跡の教室』を読みました。
現在の灘校は最初から決して現在の様な状況ではなかったそうで、昭和43年の『銀の匙』の子供たちが東大合格者数日本一になって以来、開成・筑波附属駒場に首位を明け渡しても、『銀の匙』組の49年・55年卒業は、日本一だったそうです。受験に関係のない授業がたくさんだったというのにです。
橋本武先生の教え子たちには、現在も各界で活躍中の方が大勢おられます。その一人、東大29代総長・濱田純一氏は、「橋本先生の授業は素晴らしい授業でした。知識というものを理屈だけでなく、美的感覚や感動までも伝えられるようなやり方でした。」と、仰っています。
「私が『銀の匙』に中学の3年かけてみようと思った理由の一つに、戦後忘れられようとしている“日本の年中行事や、四季よりも細かく季節の移ろいを感じられる二十四節気を伝える教材として、この小説は非常に優れている"と感じたことがあります。」
あえて捨てる
あえて徹する
あえて遠回りする
昭和25年にスタートした“奇跡の教室”は、白寿を過ぎた今現在も、『銀の匙』の新しいテキスト作りに熱中されています。
「一緒に『銀の匙』を読んだ生徒がねぇ、還暦過ぎても、みんな前を向いて歩いている。それが何より嬉しい。ほんとうに結果が出て良かった。」
大学受験の成果などは、橋本武先生の求めた「結果」ではなかったのです。
我書棚には、溯芳さんの推薦で揃えた『中勘助全集』があります。