わさびの里さらさら33
工房に自生している秋明菊が秋風にゆれ、柚子もほのかに色づいてきました。
二年前のこの時期に、工房の古民家で開催した作品展に、幼子を抱っこされて来られた母娘さんの事を懐かしく憶っています。
お母様は二回目、和歌山市内から車で往復2時間かかる道程を、是非、娘たちにも見せたくて、といらして下さいました。帰り際、丁度色づき始めた柚子を一つお嬢さんに手渡しましたら、「ほら、良い香りでしょう!」と、抱っこされていたお子さんの顔に柚子を近づけられました。茅葺きの家をバックに、その母子のシルエットが真に美しく、忘れられないシーンとなっています。
二回続いた古民家での作品展でしたが、交通の不便さで見ることが叶わないというお声をたくさん頂戴し、7年ぶりに和歌山市民会館に戻り、13回目の展示会を開催致します。
今回のテーマは《ミニキルト》です。小さな布の一片を生かすというパッチワークの原点であるミニキルトの作品を、一同に集めた展示会は滅多に見られないでしょう。今夏の猛暑の中、常に布団を抱えた状態のキルティングもさる事ながら、一片1センチ~2センチの布を繋ぎ合わせる作業は、思った以上に技術を要するものでした。これまで2メーターを超えるベッドカバーサイズのキルトを、何枚も作って来た工房のベテランの生徒たちも四苦八苦、まさに『行』そのものであった様です。小さな一片から見える世界の完成を信じて縫い続ける日々が、作品を見て下さる方たちの心に灯る明りとなれば幸いです。
会期は10月14日(木)~17日(日)、今回は東京三田教室、金沢・岡山・博多・宮崎で指導している生徒たちも小作品で参加しています。是非お一人でも多くの方々に、パッチワークの奥深さにふれて頂ける様にと願っています。
あの、二年前お母さんに抱っこされていらした幼子さんは、もう二歳半になられたかと。きっと、今回も会場で、柚子の香りのような笑顔をふりまいてくださることでしょう。
皆様方、お友達をお誘いの上、心よりお待ち申し上げます。
(蒲公英工房主宰・キルト作家 黒田街子)